カウントダウンポリシーの可視化


本日Geoff HustonのIPv4 Address Reportを見に行ったとき、枯渇期日が3ヶ月くらい前倒しになっていることを発見。

よくよく見てみたら、カウントダウンポリシーが全RIRでコンセンサスに至ったのを受けて、既にこのポリシ実装が反映されている。グラフを見ると、IANA在庫の最後が/8*5ガクッとなくなり、同時にRIR在庫が/8*5グッと増えるようになっている。さすが。仕事早い。

IPv4アドレス枯渇対応なのか、IPv6推進なのか

タスクフォース発足式

http://d.hatena.ne.jp/maem/20080906/p1 の続きです。
先日の日記に列挙したように、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース発足式はたくさんのメディアからの取材を受け、果てにNHKのニュースにも乗りました。プレスカンファレンスとしては大成功と言ってよいと思います。タスクフォースには、MRIさん、e-sideさんが事務局として参加なさっていますが、短期間でこれだけひとかたまりの準備をやってしまうというのは、さすがです。

発足会に寄せられた質問で、

IPv4アドレス枯渇対応とか言っているけど、本当はIPv6推進がやりたいんじゃないの?

みたいなものが複数ありました。

タスクフォースの名称は「IPv4アドレス枯渇対応」であって「IPv6推進」とか書いていないのですが、なぜこう受け取られるか。この辺を巡ってつらつら考えてみました。

「移行」?いや、「対応」とか「導入」とかでしょう。

少し横道に逸れますが、「IPv6移行」という言葉遣いもあります。典型例は総務省研究会の名称。インターネットの円滑なIPv6移行に関する調査研究会ですが、内容がIPv4アドレス在庫枯渇の対応であることを考えると、ズレた語用という感じがします。

「移行」というと、元の状態から次の状態に移って、元の状態がなくなるようなイメージがありますので、このイメージに従うと、IPv4がなくなってしまうかのような印象があります。インターネットにおけるIPv4IPv6を考えると、そのような状態遷移は不可能です。
現在インターネットのユーザがその利便を享受しているインターネット上の各種サービスは専らIPv4で実現されているわけで、これを直ちに全てIPv6に移す、ということは出来ない、ということです。むしろ、IPv4IPv6が共存している状態が相当長い間続くわけで、その果てに、IPv4のサービスが陳腐化してしまった末に、IPv4が世の中から消えるという順序を踏みます。ですから、「移行」という言葉が的確なのはそれくらい長い目で現象を捉えるときだけで、IPv4のサービスは現状維持して、それにIPv6を付け加えるという意味合いならば、「IPv6対応」「IPv6導入」くらいが適切。それを推し進める活動として「IPv6推進」もありですが。

IPv4アドレス枯渇対応」なのか「IPv6推進」なのか

僕の中では、「IPv4アドレス枯渇対応」の7割くらいは「IPv6推進」だという考えがあります。だからこの2つを厳格に分ける言い方が、ちょっと不自然に思うのです。

IPv4アドレス在庫枯渇に対する対策は、JPNIC第一次報告書にまとめた通り、

  1. それでもグローバルIPv4アドレスをどうにかして調達する
  2. NATなどでIPv4を使い続ける
  3. IPv6

の3つしかありません。IPv6を使わずにIPv4アドレスの枯渇に対応するには、全世界でこの1)か2)だけを使い続けるということになります。しかし、この2つが永続的でないことは明らか。ある一つの事業者が1)2)を使い続けることはできますが、その場合にも他の事業者にIPv6シングルスタックなユーザやサービスが出現したときに、それに対する接続性を確保することが出来ません。接続性確保のためには、少なくともトランスレータなどを導入する必要があります。

IPv4アドレス枯渇対応」の全てが「IPv6推進」だとは思いません。IPv6推進以外にも、Carrier Grade NATのような、IPv4による解法の拡充策の整備や、IPv4アドレスポリシーに関する終末期対応(エンドポリシーや再循環推進策)も重要で、それらはタスクフォースのスコープの中でもあります。

ただ、いくら重要だといっても、これらは短期解に過ぎません。長期的な解決、インターネットの発展と円滑な運営を維持するためにはIPv6の導入が必ず必要で、かつ最も手間が掛かるし、お金も少なからず必要。インターネットをインフラを形成している事業者の皆さんに、そういう出資・出費が必要だということを理解して計画していただくためには、今までにやってこなかったレベルの働きかけ・促進が必要です。

だから、目分量というかエイヤで7割と言っていますが、IPv4アドレス在庫枯渇問題に対する対応の大部分はIPv6推進の活動になるだろうと思うのです。

世の中は自分たちが思うほど変わっていない、ってことか。

冒頭の質問、「IPv4アドレス枯渇対応とか言っているけど、本当はIPv6推進がやりたいんじゃないの?」という言い方には、「穏やかな言葉に言い換えて隠しているけど、要は『IPv6推進』で君たち自身が得をしたいってことね」のような意味合いが見え隠れするような気もします。だとすると、この見方は、技術者コミュニティでも「v4アドレスなんて本当はなくならないんじゃないの」なんて言っていた2年前から、全く変わらない。変わらなさ加減にガックリ来ますし、リスクを取って先行的に取り組んできた人たちがかわいそうになる気がします。

でも、きっとこういう変わらなさ加減だからこそ、タスクフォースまで立ち上げて促進する必要があるっていうことなのでしょう。

IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース

金曜日、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースの発足式ということで、プレスカンファレンスを実施しました。MRI 2Fのセミナールームは満員御礼。

報道をいかに列挙。

極めつけは、NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/k10013941701000.html#
NHKがいかに技術用語を使わず、なおかつ的確に事実を伝えるか、という好例を見るような気がします。

プレスカンファレンスとしては大成功だと思います。メッセージも的確に伝わったように。
多少思うところもありますので、また書きます。

APNIC26ミーティング

maem2008-09-01

8月最終週は、APNIC26ミーティングニュージーランドクライストチャーチで行われた。
写真は今回のノベルティ。.asia謹製コンパクトサイズのUSBメモリ(それも4GB)と、Hurricane Electric謹製、リアル枯渇時計。他に、APNIC謹製のフリース(なんたってクライストチャーチは冬ですから。)と雨傘(なんたって雨続きで役に立ちました。)

今回、何が特別だったのか知らないのだが、いつもよりも1日長い会期。普通のAPNICミーティングだと、火曜日にECミーティングと他EC関連のミーティング,水曜がPolicy以外のSIG,木曜がPolicySIG,金曜がAPNIC Member Meetingということになっているが、ECミーティングが月曜。火曜水曜にいろいろとプレナリセッションが入っていた。

詳しくはミーティングページからミーティングレポートを見ていただくとして、サッと雑感を。

IPv4 in 2015

火曜日オープニングセレモニーの後。枯渇関係で登壇してねー、と担当者から言われたのは3ヶ月くらい前だったが、詳細が分かったのは、実に前日だった。今までにやったことのない「hypothetical」という形式のセッション。担当者曰く、議論喚起の一つの方法論らしいが、パネリストを現実世界の重みから解き放つ(?)ため、全員が仮想の役柄を演じる。とは言っても、「日本」の「JPNIC」のマネージャ、と言う現実を、「アニメ国」の「AniNIC」のマネージャにする、ということなので、まー、実名で言えないことがちょっと言いやすくなる、くらいでしょうかね。
みんなそんな感じの役回りになって、一番面白かった役柄は、Geoff Huston。APNICを離職して、OECDのチーフエコノミストになった、という設定。なんだかあり得そう。これだけ実在の組織だったので、良くセッションの全貌を理解しないとある人から、「GeoffってOECDに移ったのー」なんて後から聞かれた。。。まぁ、本当に移るってことを考えるとあんまりあり得ないよな。やっぱり。

ただ、あんまりちゃんと喋れなかったな。プレゼンは予め何をどういうか考えられるけど、こういうセッションはシナリオが一応あるとは言っても、基本的にフリートークだから。

"IPv6: Does it work for you?"

IPv6ネタを満載にしたセッション。日本からは、JPNICの奥谷と、NTTコミュニケーションズの吉田さんが登壇。奥谷は、日本のIPv4アドレス枯渇対応の現状を、連携活動を主軸にして。吉田さんは、Carrier Grade NAT採用に至る考え方を示す発表。
どちらも、想定して訴求するポイントがちゃんと示された発表だった。だからそこそこ質問やコメントが入るかと思いきや、全然なかった。もっともっと観客を引きつけるやり方が必要だと言うことかなぁ。。

NIR SIG

いつものNIR SIGなんだけど、今回はポリシーWGから日本のPDP(=Policy Development Process)に関して説明してもらったのが、キーポイントかと。

発表は、盟友、橘俊男から。この人の英語発表を聞くのは初めてなんだけど、喋りは得意技+英語も怖くない ということで、実に堂々とした発表。英語も言いたいことを端的に表現して、聞き取りやすいかった。

本人はそれでも苦手意識が有ると見えて、最後に、「拙い英語で済みませんでした」とか言ったんだけど、もしこの発表にアドバイスをするとしたら、この最後の文句だけが全く持って余分。APNICミーティングに出てくるノンネイティブの中では分かりやすい部類の上手な発表だったし、たとえどんなに拙くても、こういう文句は全くの「蛇足」である。僕も英語で喋ることには苦手意識があるので、最初の方はこういう文句を口にしていたけど、それで何か良いことがあったことはないし、悪いことには「ううん、上手だよ、全然問題ないよ」としつこくフォローされること。そういう仕事にしばらく慣れた後に、「慣れたとは言っても、未だにやっぱり英語で言うこと伝えるのは苦手意識があってね」とか微妙なことを言おうとしても、結局同じような顛末になる。だから、もう一切口にしないことにした。
日本人がそういう性格だと言うことはよく知られているし、何よりも、多少拙かろうが、発表してくれたり、意見を言ってくれることをとても期待されている。そうでなければ、なんだか先進的技術を持った国とは聞いているけど、何も喋ってくれないし、尋ねても笑顔だけを返す不気味な国、と言った印象だけが残るのだ。

この発表は良く他のNIRからも理解され、その挙げ句に「なぜ日本はそんなにコミュニティをinvolveすることに成功しているんだ?」という質問がでた。これに僕は答えようとして、

コミュニティを巻き込む流れは、RFC2050がdraft-hubbardだったころに始まっていて、ip-usersメーリングリストにみんな集まっていろいろやり始めたんだ。長いことやっているからってことだと思うけど、詳しくは分からない。

みたいなことを答えたら、そこにいたRandy Bushが、

いや、日本人はよほど特殊なんだと思うよ、みんなを助け合うってメンタリティが発達しているような気がする。ほとんど変態だよね、その変態なところが好きで住んでるんだけど。

ですと。いや、正直いって難しい質問です。

Policy SIG

今回ポリシーSIGは、10本のプロポーザルを抱えていて、丸一日がかりになってしまった。
特に印象的なものをいくつか。

アドレス移転ポリシー提案(prop-050)

日本のコミュニティでは、賛成する人もいるものの、大勢としては懸念が多すぎて通ってもらいたくない、という感じ。JPNIC事務局のポジションもそこにある。ポリシーSIGの雰囲気は、何人か特定の人、それも先進国の人が、移転を可能にした後の影響に対する懸念から強い反対意見を示していたが、コンセンサスに向けてチェアが挙手を求めたところ、そうとう多数の人が賛成に手を挙げていた。正直言ってヤバいと思って、日本勢を中心に負けずに手を挙げると、日本以外からも何人か反対に手を挙げ、コンセンサスには至らなかった。
しかし、コンセンサスに至る勢いは相当大きかった。この提案もこれが3場所目で、次また同じような議論のフェーズを繰り返すことはできないだろう。この半年で、議論を尽くして良いの悪いのはっきりさせなければならないと思う。

カウントダウンポリシー改(prop-055)

IANAの在庫が/8*5になったら、/8*1ずつ各RIRに分配してしまう、と言う提案。2007年3月の初提案のあと、LACNIC/AfriNIC提案とのマージを経て、やっとコンセンサスに至った。これで、決まっていないRIRはRIPE NCCだけになった。こちらも、Address-Policy WGのラストコール期間が終了し、チェアの裁定を待っている状態。APNICのラストコールを無事に終え、RIPEでもコンセンサスと固まれば、Global Policyとして実装するフェーズとなる。
これまでもGlobal Policyはいくつか通っているが、実態運用をポリシーに固めるようなものばかりだったが、これが、意味のある方針を通したものとなる。

LIRの歴史的PIアドレスを利用状況を確認する提案(prop-066)

日本では懸念が大きかったので、それを表明もしたのだが、あっさり通ってしまった。

APNIC Member Meeting

いつも通りのAMMだが、これまでと大きく違うのは理事会議長(僕です。)が司会したことだ。しゃしゃり出るのが好きだからそうしたわけじゃなく(嫌いじゃないけど)、定款に「総会の議長は理事会議長が務める」と書いてあって、定款遵守度を高める方針の中でそう変えることにしたのだ。
やっていることは単なるMCなので、そんなに難しいことはないけど、Paul Wilsonがやっているような立て板に水の流れるような司会はできないなぁ。ボクトツに、次はこれ。誰それさんお願いしまーす、を最後まで繰り返すような。。

間違ったIPv6観にツッコミを

山本和彦さん id:kazu-yamamoto が、「間違ったIPv6観にツッコミ」を開始(再開?)なさっています。

すべったテクノロジー
IPv6移行では日本の道を誤る

匿名より顕名のほうがイタさが増しますよね。公文さん,平宮さんくらいの方々には、正しいことを語っていただかなくては。
専門外のことに誤解があるのは、これはしょうがないことだと思いますので、ちゃんとしたツッコミを入れる必要がある、ということだと思います。

枯渇@JANOG22

先月のJANOG22では、IPv4アドレス在庫枯渇問題に関するセッションが2つあってそれぞれ(違った意味で)必見モノでした。これら2つだけ、特別にストリーム中継されていたものがアーカイブ公開されたようです。

IPv4アドレス 販売終了のお知らせ? 〜ISPによるNATで起こること〜
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog22/broadcast/broadcast1-5.html

God lives in the details 、だよねぇ。。

IPv4枯渇、あなたがお使いのWebサービスは生き残れますか?
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog22/broadcast/broadcast2-5.html

ipv6.2ch.net 、素敵だよねぇ。。

どちらも、語るべき人が語ったよいセッションだと思います。

本日事務局長たちは

8月1日という日(実際に書いているのはちょっと後です、すみません)だが、APNICの秘書からメールが入って、「今日がPaul Wilsonの事務局長就任10周年なんだよ」とメールをくれた。そういうことらしいです。

理事会は事務局長を雇う立場ということになっていて、年度更新を3月1日で行うので、3月に雇われたのだろうとばかり思っていた。現行の契約に入る前に、7ヶ月くらいprovisionalな期間があったということか。

10年は長い。人数予算規模ともに10倍くらいになるまで育てた。事務局員からクレームじみたことを聞くこともほとんどなく、むしろ「あれだけ飛び回っているのに、なんでここまで気に掛けてくれることができるんだ」と敬服する言葉ばかりが目立つ。この辺から経歴を見ていただくと分かるとおり、アジア各国でのプロジェクト経験を持つこともあり、アジア人のメンタリティに理解があって、異文化を超えて話すコツを熟知している。紳士でありウィットに富むだけかと思いきや、他のRIRとの交渉事の時には時に声を荒げて挑むこともあり、単に甘い顔を見せるだけではない。

と、褒めちぎったところでどうなるわけでもないんだが、本人も「まだまだやることがたくさんある」と現職に意欲満々なので、できるだけ長く付き合いたいな、と思う。


ところで、Paulの10周年という話を、我らが成田事務局長にしたところ、実は成田さんの着任日も8月1日だとのこと。何たる偶然! 成田さんは2001年着任で、丸7年。まだまだお世話になりますよー。