インガバ語録

http://ingov.exblog.jp/ というところでインターネットガバナンス語録というblogが開設されている。素晴らしい。
そこでGeoff Huston のIP Addressing Schemes - A Comparison of Geographic and Provider-based IP Address Schemes というペーパーが紹介され、管理人bbloverさんが以下のようにコメント。

10月に、ITU-TのDirectorであるZhao氏が、「IPv6を国家単位で配布して、既存のRIRによるアドレス配布と並存させることはできないか」という提案を行いました。それに対し、APNICのGeoff Huston氏による反論文書です。趣旨は要約を見てもらうとして、この主張には少し無理があるような気がします。国ごとにIPv6を配る、というのは、例えばAPNICがJPNICにアドレスを配ってそれを再配布する、ということとそれほど違いがあると思えないからです。技術的にどうこうというよりは、違った観点、例えば両者並立すると機能しない、といった方面からの反論が必要のような気がします。ただ、それを突き詰めると、「ただ一つのAuthorityが必要だというのなら、それが国家で何が悪い」という話になりかねず、それを避けるためにあえてこういう文書を書いたのなら話はわかります。

これは実にいい線を突いたコメントである。
APNICやNROからの、WGIG/WSISに対するコントリビューション,コメント,ペーパーには、Geoff Huston, Paul Wilsonがかなりドップリ関与しているが、まずは現在のRIRスキームが非常によく機能していることを主張し、これを政府管理を持ち出した瞬間に、ISPベース経路集成などの技術的要件が崩れることが運命付けられているかのような、という議論を展開するのが常だ。そこに論理の飛躍を感じていらっしゃるとすると、正にその通りである。
 
また、「両者並立すると機能しない」というのはIGTFの取る論法で、NROコメントが、上のような論調でかなり「ITUに対して対立姿勢をあらわに」しているかのようなポジションを取るのに対して、IGTFはもう少し中立的に、「ITU-政府スキームでもできるかもしれないけど、ISPベース経路集成などの技術的要件が決して崩れないことが条件。」のようなポジションを取り、正に両者並立によって、基準の甘さが競争のポイントとなってしまう可能性を懸念と、今までの実績の圧倒的な違いから、現行RIRスキームを支持するという論法を取る。
 
「ただ一つのAuthorityが必要な場合、それが国家で何が悪い」のポイントに関しては、「国家主権」というマジックワードを取り巻く議論に踏み入らないように注意しているという指摘であって、的確だと思う。

最後にJPNICなどNIRが再配布するスキームは国毎と同じである、というポイントだが、先に述べたようにGeoffが論ずる「国毎」の意味は「政府管理」であり「ISPベース経路集成を無視した」という文脈が前提となっていると考えるほうが分かりやすい。なのでむしろNRO陣営は、特にNIRスキームが機能しているAPNICは、既存の仕組み(NIR)によって国毎の背景や遵法性も考慮することができるのだから、ますます各国政府が管理する必然性などないではないか、と論じている。
例えば韓国の例だと、もともとNIRであったKRNICはNIDA(National Internet Development Agency)という政府組織の一部局となったし、資源管理が法制化だってなされているが、それでもRIRのポリシを遵守することになっている。このあたりの柔軟性はITU陣営もまだよく理解していないのではないかと思われる。
 
NRO,APNICもそうだし、IGTFもそうだが、コメントやペーパーを適宜公開しながらも、お互いの議論を通じてもっともっと自らの主張を練り上げて行っている最中である。