コンセンサスと国際関係

先週1週間、コンセンサスとは何なのか、なんていう話で大揉めしていた。
APNICのNIR SIGというSIGに、一応NIR共同提案として出していた、"Abolishing IPv6 Per Address Fee for NIRs"というプロポーザルに関する議論である。

内容の細かいことは割愛するが、NIRs - National Internet Registries、つまり、JPNIC, KRNICといった国別のIPアドレスレジストリに課せられている Per Address Fee に関して、IPv6に限って全面撤廃するべきだというプロポーザルを、9月に開催されたAPNIC20でNIR共同提案という形で提出した。
このプロポーザルはNIR SIGで若干の反対を含みながらコンセンサスとなり、Member Meetingでも同様にコンセンサスとなった。しかしここからが問題。
以前はこれでポリシ実装に進められたのだが、現在は8週間のレビュー期間を入れて、オンサイト議論ができなかった人間の便宜を図っている。このオンサイト後の期間で、オンラインで議論が火を噴いた。
NIRでない一般メンバから、本件NIRが支払う料金を一方的に安くするという提案で、全メンバーシップの観点から言うと合理的でない、ということで、同様に数名の反対を得てしまった。
これに対して僕は最初、一生懸命説明して、そこまで収入に対するインパクトがないことや、そもそもPer Address Feeが発足当初の設計どおりうまく機能せず、大きなアドレスブロックにおける額が尋常でないことなど説明したが、やはりうまく説得し遂せなかった。
 
NIR SIGのチェアはJPNICの奥谷泉。一般メンバから大きな反対があがり、逆に賛成が得られない状態で、NIRに有利となるプロポーザルをコンセンサスとして片付けることは、この1回限りたまたま通すことができたとしても長い目で見ると絶対立場を悪くすることになるので、non-consensusとして処理するべきであろう、という結論になった。
 
これを納得しなかったのはKRNIC。彼らの論理は、オンサイトで、SIGもMember Meetingもコンセンサスという結果になったのに、たった4人の反対でそれまでの議決が覆されてしまうのはおかしい、と。我々は我々の考え方のほうあ妥当だと思っていたのだが、こういう言い方があり得ることは認める、という感じだった。説得すれば分かってもらえるだろうと思ったが、この読みは全く外れた。最後までこの言い分を崩さなかった。
co-chairであるTWNICのDavid Chenも奥谷と同じ考えだったので、KRNICを説得できないままChairとして non-consensusを宣言した。それでも彼らは言い分を崩さないし、それどころかchairの判断を"mistake","serious error"と連呼して憚らない。

KRNICはAPNICの考え方を確認したいと言って、APNIC事務局にかなりしつこく電話をしたり、あるいはカンファレンスコールを提案したりしたが、APNIC事務局は、議論はコミュニティの中でなされるべきで、それを左右するようなことを事務局から言うことはできないという立場を取り、この議論には全く入ってこなくなった。Executive Councilから何か裁定を下すことができるかと思っていたのだが、プロセスを読み込むと、コンセンサスとして上がってきて始めて公式なアクションが取れると読めてしまい、事務局と同様あまり介入できないということになってしまった。

メーリングリスト上では、奥谷やChen以外にも、SIGでアクティブなメンバーが全員がかりでといっても過言ではないくらいでてきて、KRNICの考え方を正そうとするのだが、どう持って言っても、「分かった分かった、だがまず間違いを正してからだ」などと話を元に戻す。これはある意味ワイルドカードで、何を言ってもこの一言で議論が元に戻ることになってしまう。しかも、事務局もECも公然と手を出すことができないわけで、あくまでSIGの上でどうにかしろということである。後はもうシカトしか残らなくなってしまう。
 
今週もこの問題に少なくない時間を割かないといけない。結構大変である。
そもそも、NIR共同提案という形を持ちかけられたとき、提案内容は自分たちにとって悪い内容でないということで、後は協力体制の一環として受け入れたようなものだったのだが、奥谷と反省しているのはこの時点でもっともっと、精密に読み込んで、今になってみているような副作用を織り込みながら考えないといけなかったということである。
また、英語によるコミュニケーションも、隔靴掻痒なところがあったり、アジア諸国の中で英語だけを頼りに議論することの難しさを実感したりしている。