インターネットガバナンスの一歩前進とは

WSISは本日からチュニスフェーズとなるが、本会議は大臣クラスが出てくるもので、決まったことを採択して完了する。その決まったことになることを決めるものがPrepComと言われる準備会合で、直前の準備会合であったprepcom3が9月の日程で調整が完了せず、本会議直前に復活会合を行うことになっていた。
復活会合最終日、つまり次の日から本会議だという日も、夜半くらいまでかかって最終調整が行われ、ついに決議案が採択されたようだ。

いまのところ入手可能な情報源としては、
日経が書くとこうなって、
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?i=2005111601433ba
 
もう少し息遣いが感じられるレポートは英語ながらこっち。
http://www.huffingtonpost.com/james-love/notes-from-tunis-the-_b_10698.html
 
要約を試みると、

  • ICANNは現状のまま維持,
    • ICANNと商務省との契約,ルートゾーンファイルの編集承認権を含め、米国政府の関与も当面は今のまま継続
  • UN管轄で multi-stakeholderなフォーラムInternet Governance Forum を設置する
    • 来年アテネで会合を開くことは決定。最低5年は維持する

ということになっていくらしい。

準備会合を通じ、米国政府は「俺たちは管理権を手放さん」と態度を硬化させ、それに対応してかEUではかなり国家関与を強めるポジションに急遽移行したりと、相当に大きな動きがありながら最終的には態度を硬化させた米国の思惑がかなり通ったものと言える。

一方で、あらゆる意見の衝突が先送りにされただけだという評しかたがありながらも、国連管轄下で、国家代表以外にも門戸を開いたフォーラムが維持されるというのは、国連としても随分思い切ったということになるのではないだろうか(識者の観測を伺いたい)。
  

最近個人的にインガバに関してつらつらと考えるに、

  • インフラ運営に関しては技術革新やユーザ増に迅速に追従するには民間に委ねられた政策や規格の制定が欠かせない一方、
  • セキュリティ,犯罪防止などといった社会的なルール(つまり法律や条約)の確立のために、(国境がない社会インフラだからこそ)*政府間で*ある程度足並みの揃った検討が必要だということだろうなぁ、

という、書いてしまうと至極当たり前な構図を確信するようになってきた。そういう観点からこの決議案を眺めると、

前者の意味では既存のICANN/NRO(RIRs)/TLDs/IETFの体制で今まで概ねうまくやってきたし、急に革命的な変革を行うことで何かを損ねるリスクは最小化しないといけない。
その結果米国の法的つながりが断ち切れなかったということになるが、それはこの2年足らずでは時間が足らなかったということで、今後取り組む課題として残った、と。
 
後者の意味では、今現在でも社会秩序の維持のために、インターネット利用に関してルールの整備が必要だということが整然と共通認識化されていないので、それを醸成するところから始まり、最終的には国際条約のような形で実装するのでしょう、と考えると、

今回の結論はとりあえずのところいい線をいっているものということになるのではないかと思えてくる。なおかつ、国連的には open + multi-stakeholder という合意形成の方法を一歩進めるということで、これも案外大きな一歩かなぁと。
 
水曜日の朝、prepcomの結果の速報が入り、1日いろいろと考えたり話したりしただけではあるが、以上のような感触を持ちました。
これに関していろんな方の前でお話しする機会が、インターネットウィーク,JANOG17と今後でてくるのですが、それまでにいい俯瞰が得られるように整理していきたいと思います。
(あ、急に敬体。ま、気にしないってことで。)
 
しかしまぁ、ここまで来ると正真正銘、政治の問題だなぁ。WSISはITU管轄の国連サミットですからね。でも、そういう世界にもインターフェースして、インピーダンスマッチングしないと、物事うまく動かないってことだろうと思います。