IGFを振り返る
結局、IGF日記は1日目で終わってしまい、帰国して既に1週間が経ってしまいました。
なかなか普段取れる時間でまとめてしまえなかったんですよね。今日は一念発起して書いています。
今一度、Webが素晴らしい。
http://www.intgovforum.org/ をご覧下さい。
今見ると既に次のIGFに目が行っていますが、それでもアテネのフォーラムに関して、例えばメイントラックの全ての速記録がトップページからたどれます。
メイントラック以外にワークショップトラックが3本立っていて、こちらに関してはさすがに速記はなかったのですが、11/1,2の朝一番、"Summing Up"のセッションで、ワークショップのサマリーがなされています。Webcastingやaudiocastingもやっていてそれも近日公開らしいので、「その場の雰囲気を感じる」とか「他の出席者に用事がある」とかじゃなければ、現場にいなくても相当の用事が済みそうです :-p 。
また、事前に募集した意見を整理して会期前には出来上がっていた、Background Paperもいろんな意見を良く整理できています。さすが国連事務局、ってところだと思います。
なんかべた褒めになっちゃってますが、褒めすぎていません。一見の価値ありですよ。
セッション内容に関して短めに
さて、2日目以降は、ワークショップを見ようか、メイントラックを見ようか、と悩みながら進んでいきます。結局どう見て行ったかということと、寸評を入れますと、
31am: Workshop - Infrastructure Security
もっとレイヤ0的な方向に行くかと思いきや、DNSのインフラの話に終始していました。Verisign, AutonomicaなどからDNSの品質の維持に関する話がなされました。会津泉さんも登壇なさっていて、「高品質化とか、多言語化とか、そういうことにどれくらいコストが掛かっていて、最終的に費用を負担するユーザにどれくらい跳ね返ってくるかはっきりさせるべきだ」というコメント。とても市民社会的な視点なわけですが、最近セキュリティに関する調査をたくさんおやりだけに、この辺の事項の整理が秀逸でした。
31am: Workshop - Participation
これが資源管理ガバナンス機構の内容を扱う数少ないセッションのひとつ。ICANN+RIRs+ccTLDsに、なんとISOCまで相乗りして90分セッションひとつです。内容も、「市民に対してガバナンス機構をレクチャーする」感じでした。
31pm: Main track - Security
Ken Cukierのコーディネーション。
1am: Main Track - Summing Up, Diversity途中まで
今井義典さんのコーディネーションは、落ち着いていてとても良かったですね。最初の30分をIDNに、と言いながら結局ちょっと枝葉に入って長くなっていったような気もします。
1am: Workshop - IP Network Deployment
Deploymentという言葉で警戒しないではなかったもののIP Networkという言葉に惹かれて行ってみましたが、やっぱりアフリカや南米で、どうやって回線を人々に持って行くかという話、お金がないから困ってるんだよね、みたいな話が前面にでたセッションでした。
1pm: Main Track - Access途中まで
これも、今回のIGFを象徴するセッションだったと思いますね。
- access to the access - 回線を持って行くためにはお金が必要だし、先進国のキャリアは低廉化できるはずのサービスを安くで出してくれない、、、などなど
- access to knowledge - 知識にアクセスするために必要な能力開発が必要だ
つまり、発展国支援の文脈を色濃く出しながら、テーマを絞りきれずに進んで行く。
1pm: Workshop - DNS root Zone file Mgmt
これがうわさの、ブラジル政府もオーガナイザーに入ったDNS root zone file management。セッションチェアは Milton Muller - Internet Governance Projectなどを主導するうるさがたです。
予想通り、途上国の人々が現在の米国覇権体制を非難するわけですが、パネリスト(Verisign, Autonomica, AT&T General Councel..)もがんばって理路整然と質問に応えようとしています。それでもたまに会場から、ステートメントの読み上げのようなコメントがでてきたりして、もっとも酷いヤツではMiltonがマイクを取り上げていました。
この中でもっとも印象的だったのは、AfriNIC CEO、Adiel A. Akplogan のコメント。「その管理体制をどうだこうだと議論するのは、ちゃんと動いている今そんなに重要なことなのか?俺たちに重要なのは、水だったり、食べ物だったりするんじゃないのか?」Adielはアフリカをリードする人間でもありますが、RIRsというインターネットのテクニカルコミュニティの一翼でもありますから、この辺のバランス感覚は素晴らしいものがあります。
他の記事を見てみる
既にいくつか記事がありますのでそちらの紹介を。
ITmedia: 国際化ドメインの危険性、ICANNが指摘
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0611/02/news050.html
CNET: IGF開催--米国によるICANN支配問題が再燃か
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20294307,00.htm
CNET: 中国ネット検閲問題:協力企業に国連サミットで批判相次ぐ--グーグルの対策も明らかに
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20298207,00.htm
総務省報道発表: 第1回インターネットガバナンスフォーラムについて
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/061109_2.html
JCAFE柴田さんのIGF現地レポート
http://www.jcafe.net/igf/
今回本当に不思議なのは、ITmedia, CNETなどの記事において、そのものずばり「インターネットガバナンスフォーラム」という名前を使っていないことですね。「国連のサミットにおいて」とか、この婉曲具合はなぜなんでしょう?謎です。あと同じようなことですが、IGF全体に関するレポートがこれらのメディアどこからも出ていない。うーむ。
総務省の発表は端的ながら
3.議論の概要
全体テーマは「開発のためのインターネットガバナンス」、個別テーマは以下の4点とされ、「人材育成」が横断的優先事項とされました。
(1) 自由な情報流通・表現の自由
(2) インターネットにおけるセキュリティ
(3) インターネットの多様性
(4) インターネットへのアクセス
議長総括として、第1回IGF会合は政府関係者、国際機関関係者、民間企業、市民団体など異なる分野の参加者がオープンな場で交流する壮大な実験であり、第1回目の顔合わせとして意味があり、全般的には機能したと評価されました。
としています。端的ながら、的確だと思いました。
JCAFE柴田さんのblogによるIGFレポートも、ほのぼのしているなかで時に鋭く的確な指摘があったりして、なかなか素敵です。
次以降は?
初日のスピーチを聞いていて、開催国に関して繰り返し述べられていたのは、古代文明の地であり、民主主義発祥の地だということです。インターネット上の世の中の仕組みを考えるということを古代にまで遡って捉えなおすという心意気ともとることができます。
次回以降は、http://intgovforum.org/ でも見えますが、2007ブラジル,2008インド,2009エジプトまでが決まっている模様。2010はリトアニアとアゼルバイジャンが名乗りを上げているらしいです。いずれにしても、こういったBRICs付近の諸国が名乗りあげる性質の会議だという感じはしっくりきます。
総評、というか。
WSISチュニスアジェンダでIGFは「マルチステークホルダーの対話の場」として定義され、その実装を初めて見たのが今回のアテネでした。IGFはもはや従前のインターネットコミュニティとは異なるメンバーシップによるミーティングです。国連ということで発展途上国からたくさん人が来ますし、市民社会からもたくさん出てきます。
発展途上国支援は、申し訳ないながら僕の領域から外れてしまいます。APNICって言われればその領分の中で考えないことはないですけど。そういう文脈ばかりだと正直言って辛くなって興味が薄れる方向になってしまうかもしれませんが、インターネットが成し遂げることができることのひとつかもしれないと思って、今後もフォローというかカバーし続けたいと思います。
今回、Openness, Diversity, Access, Securityという4つのテーマに関したメイントラックはどれも、ジャーナリストをコーディネータに立てて、マルチステークホルダーのパネルを構成して、というフォーマットでした。これらは第一回ということもありますが、大いに発散しました。WGIGでやったのでは?と思わないこともないですが、問題点の洗い出しということで次回につながっていかないといけないと思いますが、どうなることでしょう。
ジャーナリストをコーディネータに立てるというのはかなり実験的だと思いますが、インターネットは普通の(non-techieの)人のものなんだという意識の現われとして捉えられると思います。インターネットに関するあらゆる分野の人たちは、自分の専門の仕事を深化させる以外に、普通の人々に理解してもらうということを意識しないといけないと思います。
単に対話だけしていて物事が前に進むのか、という良くある質問に関して。僕なんぞが、国際社会がどう動くかを論ずるのはおこがましいのですが、インターネットが今まで発達してきたのは、「あんまり決まりごとを作らずに、その代わり動くものを作ってきた」からに他ならないわけです。「壮大な実験」に参加して何か新しいことを成し遂げようじゃないのよ、と参加者が思うことが重要だと思います。実際ニティン・デサイ,マーカス・クマーという国連方面の人たちが一生懸命こういうフォーマットの会議を動かそうとしているわけで、今後5年間、少し気を長く持って、希望を持って前向きに取り組むべきなんじゃないかと思います。